社内の協力を得てスムーズにRPAプロジェクトを成功させるためのポイント

パソコンを使用したルーチンワークを自動化させるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)。効果的に活用すれば、大幅な業務効率化、生産性向上が実現するとして大きな期待を集めています。しかし、日本ではまだ普及段階であり、RPAの機能、効果を明確に把握できていないことから、導入時点で社内間の意思疎通ができずに失敗に終わるケースが少なくありません。そこで、今回はRPAプロジェクト開始時点でトラブルが起きてしまう理由を考察しつつ、スムーズに導入するためのポイントをお伝えします。
RPA導入時、社内でトラブルが起きてしまう理由
MM総研が2020年1月27日に発表した「RPA国内利用動向調査2020」によると、企業のRPA導入率は全体で38%でした。2018年6月時点の導入率は22%であり、約1年半で16ポイント増加しました。ただ、企業規模によって導入率の差は大きく、大手企業では51%と半数を超えていますが、中堅・中小企業では25%と、まだ4分の1に過ぎません。
導入が進まない企業が多い理由はいくつか考えられますが、なかでも大きいものとして、RPAが登場してからの歴史がまだ浅い点が挙げられます。積極的に導入を推進する層がいる一方、導入に懐疑的、もしくはそもそもRPAで何ができるのかを理解していない層など、社内のなかでも意見が割れているケースも多いでしょう。
特に、RPAの機能、効果を明確に把握していないケースが少なくありません。現状多くのRPAはあくまでも人が行うルーチンワークを自動化するものであり、高度な業務を自動化するものではないという点への理解が進んでいないことで、誤解を起こしやすくなっています。
社内で導入に対する意見が一致しない、導入を決めたとしても、RPAに対する理解ができておらず多大な期待をもってしまうなど、検討段階から導入後までさまざまな課題が発生。結果として導入が進まない、もしくは導入しても使わなくなるといった結果になりがちです。
RPA導入プロジェクト成功事例
ここで、実際にさまざまな課題をクリアし、RPA導入に成功した事例を二つ紹介します。
200以上あった手作業をRPAで自動化し、約75%の業務削減に成功
ネットショッピングモール最大手の楽天グループの例を紹介します。同グループではネット通販にとどまらないさまざまな業務を手掛けていますが、金融サービスの中核として、クレジットカード、信用保証業、貸金業などを行っているのが、楽天カード株式会社です。
そもそも金融サービスは膨大なデータ処理が必須な業務が多く、そのほとんどはシステム化されているものの、パソコンを使った手作業も少なくありません。同社も例にもれず、サービスを維持するためのマニュアル作業が、イレギュラーなものも含め約200種類に及んでいました。そこで、少しでも手作業を減らし業務効率化を図るため、RPAの導入を決めました。
約2か月間にわたり、RPAを使って自動化できる業務を調査し、12種類の作業に絞り込んで自動化を実行しました。その結果、今までの作業時間や作業人数が4分の1にまで圧縮されました。75%の業務削減効果が得られたことになります。
ポイントは、現場の業務経験とノウハウが蓄積されたリーダーを選出し、そのリーダーにRPAのシナリオ作成を任せたことにあります。RPAの特徴は、プログラミングの知識がなくても、RPAを動かすためのシナリオ作成が可能という点です。しかし、現場の業務経験のない人がシナリオ作成をすると、目的不明で誰も管理できない「野良ロボット」が大量生成されてしまうリスクがあります。
リーダーが中心となってシナリオ作成をし、そのノウハウを集約して体系立てていくことで、現場の業務に沿ったプログラムが生まれました。
こうしてRPA活用の幅が広がっていき、結果的にRPAを使ったすべての業務で生産性向上が実現しました。
災害復興業務で増加した職員の負担をRPA導入により大幅削減に成功
人口約6万人(2015年度時点)の熊本県宇城市では、2016年に発生した熊本地震の災害復興業務で職員の負担が一気に増加していました。元々、人口減少により市の人件費、職員数が減少傾向にあったこともあり、業務改革が喫緊の課題となっていました。
そこで、同市では解決策のひとつとして、窓口業務へのRPA導入を決断しました。全部局、123の業務で業務プロセスの棚卸作業を実施したうえで、2017年6月より、ふるさと納税や時間外申請(時間 外勤務手当計算)業務での実証実験を開始しました。ただ、ふるさと納税業務だけでは費用対効果が見込みづらいという結論に至ったため、2019年4月からはふるさと納税業務のほか、「職員給与」「住民異動」「会計」「後期高齢者医療」「水道」の6つにRPAの活用を拡大し、さらなる業務効率化を進めて業務時間の大幅削減を目指しています。
宇城市のRPA導入成功のポイントは、長期的な視点から、将来的には複数業務に一括してRPA導入を行うことを見据えて、プロジェクトを進めた点にあります。上述したように、実証実験ではふるさと納税業務1つだけでは5年間導入しても大きな効果は得られないという試算が出ていたことから、結果的に6つの業務にまでRPA適用の範囲を拡大しています。この例からは、業務の棚卸を実施して自動化できるものとできないものの見極めをしっかりと行うことが重要だといえるでしょう。
RPA定着のためのポイント
自社でRPAを定着させ、業務効率化、生産性向上を実現させるにはどういった課題があり、それをどう解決すればよいのでしょうか。ここではそのポイントを説明します。
課題:RPA導入の効果がわからない
これまでにも言及したように、RPAがどういった機能をもち、どういった役割を果たすのかがまだ理解されていないため、導入検討時にRPA導入の効果がわからないと反対する声が上がるケースがあります。
解決策:勉強会を開催し、RPAの基礎、機能、効果を周知する
RPA導入に積極的な層が中心となり、RPAの基礎、機能、効果を説明する勉強会を実施します。ポイントは、導入を否定する層ではなく、まずは無関心な層に対し、しっかりと説明し、少しずつ肯定派を増やしていくことです。
課題:自動化すべき業務がわからない
これも、RPA導入の足かせになる大きな課題のひとつです。RPAの機能に理解が足りないのはもちろん、理解しているとしても、特に経営層のように現場にいない人にとっては、どの業務が自動化できるかがわかりません。結果として導入してもどの程度の効果が出るかが見えないとして承認が得られないケースも少なくありません。
解決策:業務の棚卸を行い、ボトルネックを明確にする
業務プロセスの棚卸を行うと同時に現場の社員にリサーチを行い、業務効率化を妨げるボトルネックを調査します。これにより、業務の流れを可視化させ、RPA導入によりどれだけの効果が出るかを数字として算出します。
課題:RPAの管理が難しい
RPAは基本的にプログラミングの知識がなくても、プログラムを動かすためのシナリオ作成が可能なツールです。それでも自動化したい業務によっては、ある程度の知識が必要となる場合もあります。そのため、シナリオを作成した社員が異動や退職でいなくなってしまうと、誰も管理できなくなってしまいます。
解決策:マニュアル作成、定期的な勉強会の開催
シナリオを作成した際には必ずマニュアルも作成し、属人化を避けるようにします。また、導入後も定期的に勉強会を開催し、社内人材の育成を行い、蓄積されたノウハウを絶やさないようにします。
RPAプロジェクト成功のポイントは少しずつ理解者を増やしていくこと
日本ではまだまだ新しいツールのため、RPA導入に積極的な層と否定的な層、無関心な層が出てくるのはある種仕方のないことといえます。そのため、スムーズな導入を実現させるには、業務効率化の妨げになっている業務があることを明確にし、それを解決するためにRPAが効果を発揮すると熱心に説得することです。そして、導入に積極的な部署でスモールスタートを行い、実際に効果があると実証しましょう。
最初から無理に全社で導入しようとしても、否定派との対立が生まれてしまい、大きな効果は期待できません。それよりも、まずは積極的な層、無関心な層を巻き込み、少しずつ結果を出し、否定的な層の理解を得ていくのがスムーズな導入のポイントといえるでしょう。
参照サイト:
- 「まるごとDXサポート」で始めよう DX対策|お役立ち資料|まるごと電子化
- まるごとDXサポート|サービス詳細|まるごと電子化
- RPA|サービス詳細|まるごと電子化
- 業務効率化にRPAを活用するポイント|お役立ち資料|まるごと電子化
- RPA国内利用動向調査2020|株式会社MM総研
- RPAの導入・運用時にぶつかる主な課題とは?解決のための対策も紹介|FCE Process&Technology
- RPA導入のポイントとは?メリットや失敗しない進め方を解説|D-Analyzer
- RPAに関する実態調査|toolhouse
- 楽天カード RPA導入事例|NTT DaTa
- RPAを活⽤した業務改⾰|熊本県宇城市
- 熊本県宇城市、RPAで6業務を自動化、2019年4月から職員給与や住民異動など|IT Leaders
- 中堅・中小企業こそRPAの導入で生産性の高い仕事を|まるごと電子化