経費削減の一助に書類の電子化を検討してみませんか

経費には、固定費として人件費や設備費、変動費として仕入原価、消耗品費など、多くの項目があります。売上高から経費を引いたものが利益となり、利益を拡大するには経費が少なければ少ないほどよいということになります。人件費や設備費、仕入原価といった項目の経費削減で大ナタを振るうのは容易ではないため、事務用品を節約するなどして、消耗品費のような小さい項目から経費削減に取り組んでいる企業も多いかもしれません。
実は、従業員一人ひとりの努力に頼らずとも、コスト削減できる方法があります。それが書類の電子化です。書類の電子化は、省スペース化による賃貸料(固定費)削減の期待や、テレワーク環境の整備による交通費削減といった将来的な副次効果も見込めるため、これからの企業経営には欠かすことのできない取り組みになるでしょう。今回は、経費の削減をメインに書類の電子化による効果を見ていきます。
書類の電子化で経費削減できる代表項目
書類の電子化とは、「ペーパーレス化」を目指し、これまでオフィスで使っていた紙書類を電子ファイルに置き換えて業務を行うことです。それでは、書類の電子化では、どのような経費削減効果が期待できるのでしょうか。以下は、明らかな費用として経費計上されている、いわば目に見えるコストの一例です。
- 消耗品費:コピーや出力に使われる用紙代やトナーなど
- 事務用品費:作成した書類の保管時に用いるバインダーやファイルなどのほか、細かいものではクリップ、ステープルの針、手書きの書類用ではボールペンなど
- 光熱費:出力機(プリンターや複合機)のリース費用とそれらの消費電力
- 外注費:機密書類の廃棄のためのシュレッダーの設置、溶解処理業者への支払いなど
個別にみれば小さなコスト削減ですが、中長期で積み上げていけば無視できない金額です。また、次の視点でも、オフィスに関連するコストとして、事務スペースの賃料にも影響があることを考えてみたいものです。
- 書類の保管用キャビネットなどの什器、その設置スペース、書庫としての部屋の賃借スペース
必要な書類を保管し、参照できるようにしておくのは業務上必要なことですが、紙のままで保管することは、それだけ保管スペースのための広さがあるオフィスや倉庫を借りなければならず、その分が賃料に上乗せされます。
テレワークしやすい環境作りで将来的な通勤手当・交通費の削減も
紙書類にかかるコストで、本当に問題となるのは人件費です。次のような書類にまつわるさまざまな作業を人が行うことで、その作業にかかるコストが年間でどの程度になるか、把握しづらいところが問題となります。
- 複写式伝票や手書き文字の入力作業。
- 書類や帳票等を回覧するためのオフィス内外への移動・運搬作業。
- 書類の整理や保管のための仕分け、ファイリング作業。
- 保管されている紙の書類から必要な書類を探し出す作業。
これらの作業は、仕事の一部であり必要なものです。しかし、実際には人件費として発生しているコストであり、削減するに越したことはありません。このような作業にそれぞれの従業員が多くの時間を費やしているうちは、労働時間の短縮にも限界があり、コア業務への集中度も低いままとならざるをえません。
電子化が進むことで、紙の書類を参照する頻度が減り、フリーアドレスやテレワークを行いやすい環境にもなります。フリーアドレスの環境が整えば、一同が集まるスペースとしてのオフィスに大きな面積を割かなくてもすみます。
これらの効果が複合的に得られるようになれば、中長期的に大きなコスト削減を実現できます。
さらに、会議資料を電子化し、ミーティングをオンライン化することで、場所に制限されずにコミュニケーションが取れるので、会議室利用の混雑緩和や会議スペースそのものの省スペース化もできます。書類の電子化の一環として、電子化したデータをオンラインストレージに保管すれば、情報の共有や仕事の分散処理が可能です。その結果、従業員が集まる目的だったオフィスの面積縮小だけではなく、通勤や出張などの手当の削減にもつながります。
書類の電子化の方法
それでは、具体的に書類の電子化の取り組み方を見ていきましょう。
書類の電子化の手順
これまで紙の書類で運用してきた事務作業をすべて電子化するとなると、とても大変で業務が停滞するリスクを心配する方も多いことでしょう。しかし、次の3つのステップを踏んで電子化することで、問題なく進めることができます。
1.既存の紙書類の電子化
すでに紙で保管されている書類を、廃棄、紙保管対象、電子保管対象などに取り扱い方法を区分し、スキャンして電子化。
2.紙書類の代わりにPDFやクラウドドキュメントなどの電子フォーマットを活用
ワードなどの文章作成ツールで作成した書類は、紙出力するのではなく、PDFやクラウドドキュメントで電子ファイル化し、共有フォルダ上で閲覧・修正・共有・保存する。
3.ワークフローシステムによる脱ハンコ化
稟議申請、契約書などの決裁行為は紙書類を用いる方法をやめ、オンライン上で処理が完結するワークフローシステムを導入し、脱ハンコを目指す。
これらすべての段階を実現できなくても、例えば1番目の「既存の紙書類の電子化」だけでも、紙書類の保管スペースの削減や、書類データ利用者の検索時間を大きく短縮することができます。書類の電子化の一環として、社外から紙で受けとった請求書等の伝票類は、スキャンしてPDF化するか、OCRでテキストデータ化しておきます。また手書きの帳票の読み取り制度が高いAI-OCRを活用すれば、入力作業に関わっていた時間やスタッフの人件費の削減につながります。
3番目の「ワークフローシステムによる脱ハンコ化」まで進むと、事業上の重要な意思決定や承認に要する時間が短くなるだけではなく、出力や捺印のために出社する必要がなくなり、テレワークの推進にもつながります。
書類の電子化から働き方改革につなげた事例:愛媛県西予市
最後に、自治体における書類の電子化の事例として平成27年に実施された「西予市オフィス改革モデルプロジェクト」をご紹介します。
テーマは「職員の生産性向上による地方創生」
愛媛県西予市ではICTの活用を中心とした職員の働き方改革を実施しました。将来的に人口減少が進むことで市の財源も限られたものになるため、職員数の削減を求められる方向性が予見できます。一方で、社会情勢の変化から市民のニーズに合わせたサービスも多様化してきているため、むしろ市職員の仕事は増える方向にあります。限られた職員の生産性を向上させることで、基本的な行政サービスの充実のみならず、未来を見据えた地方創生を目標にした取り組みになりました。
実施内容
オフィス業務の改革プロジェクトの手法は、主に以下となります。
- ツールの導入、情報の電子化による業務のスピードアップ、効率化。
- フロアの無線LAN化を実現し、フリーアドレスを導入。業務に合わせた働く場所のフレキシブル性を確保。
- 遠方の支所や外部業者等とのWeb会議の導入によるコミュニケーションの充実化。
- 議員にタブレットを配布し、ペーパーレス化を推進。
- SNSによる積極的な情報発信。
取り組み効果
情報の電子化やペーパーレス化などの取り組みにより、議会のコピー使用料が半減し、FAX代は10分の1以下にまで下げられ、書類の保管料の50%削減を実現できました。一方で、フロア全体の会話量は2.2倍に増加し、コミュニケーションを充実させることができました。業務効率化によるコスト削減効果は、年換算で1,600万円相当に上ります。オフィス業務の改革に合わせた新しい什器等の購入に1,000万円ほどを投資しましたが、差し引いても600万円の経費削減が果たせたことになります。そして職員の7割以上が「業務効率が上がった」と回答するに至りました。
書類の電子化という即効性の高い経費の削減方法
人件費や事業の設備費、仕入原価といった、製品やサービスに直結するような経費の削減となると、コア業務やサービスへの影響もあるため、コスト削減がビジネス活動に悪影響を及ぼす危険性を否定できません。そのため、どの経費をどのように削減するかは常に慎重に判断する必要があります。
一方、書類の電子化はコア業務やサービスレベルへの影響が基本的には少ないため、生産性を維持しつつ着手でき、その結果によるコスト削減や生産性の向上効果を得ながら、段階的に進めることが可能です。まずは、現在保管している紙の書類の整理と電子化、それに合わせた管理方法の改革から進めてみることをお勧めします。
参考: