新型コロナウイルス感染拡大でBCPを再考
新型コロナウイルス感染拡大の影響は長期化傾向にあり、社会全体が感染防止策の模索に追われています。
BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)やテレワーク推進を用い、事業の継続性を維持しているものの、業務能率や生産性が思うようにコントロールできず、ビジネス活動に苦慮している企業は少なくないでしょう。
今回のような緊急事態や危機的状況下においては、経営者は従業員をはじめとするステークホルダーの安全確保や供給責任を果たすと共に、事業への影響を極力抑えなければなりません。
今回は事業継続の命綱となる事業継続計画(Business Continuity Plan~以下BCP)に関して考えていきます。
従業員が感染したら?
「従業員から発熱の連絡が入った。新型コロナウイルス感染が疑われる。」そのような情報が入ったとき、経営者は先ず何をすべきでしょうか。今一度、感染報告の流れを確認しましょう。
疑似感染の目安
厚生労働省の新型コロナウイルス感染症に関するQ&Aによれば、下記に該当する場合は、当事者は外出を控えるなど感染を前提とした行動をとり、新型コロナ受診相談窓口(帰国者・接触者相談センターなど)に相談をする目安として示しています。
- 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
- 重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
※ 高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方- 上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)
上記に該当する従業員が発生した場合は、早急に新型コロナ受診相談窓口への相談を促し、対象者の過去行動より濃厚接触者を洗い出し、自宅待機などの感染拡大防止対策を検討する必要があります。国立感染症研究所による濃厚接触の定義は「発病した日の2日前」「1メートル以内かつ15分以上の接触」とされています。
相談窓口がPCR検査の必要ありと判断した場合、対象者はPCR検査を受ける流れとなります。陽性の検査結果が出た場合、対象者は症状により、感染症指定医療機関に入院、あるいは自宅やホテルなどで待機するといった流れとなります。
(上記の内容については今後変更になる可能性があります。最新の情報につきましては、厚生労働省の新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)の情報をご確認ください。)
対策の目的は事業継続
新型コロナウイルス感染の目安について掲載しましたが、感染対策を図る目的としては、従業員をはじめとする企業のステークホルダーの安全確保と共に、事業継続にあります。
段階的な理解が必要
現在の新型コロナウイルス感染拡大の状況でいえば、感染防止はステークホルダーの安心安全を図る第一段階となります。緊急事態宣言により取り急ぎ出社停止や時差出勤、営業時間短縮や訪問自粛といった配慮が広く始まったのがこの段階です。
その次の段階では業務運営の維持と持続のための取り組みとなります。リモートワーク推進やRPAによる業務自動化、省人化措置など、現在、国内で取り組まれている多くの施策がこの段階にあります。
その後に、ニューノーマル(新常態)への適用として、事業戦略と組織の再構築、収益構造、社内の制度(運用方法や社内システムなど)や働き方の変革へと移行する流れを、視野に入れておく必要があります。
未来の経営を踏まえたBCP戦略
事業継続の観点においては、新型コロナウイルス感染拡大だけではなく、近年の東日本大震災や熊本地震のような大規模災害も含めて検討しなければなりません。
近年では異常気象によるゲリラ豪雨や洪水被害など、国内でも天災が多く発生しています。明日、災害が発生したとき、どのように事業を継続させるのか。コア事業運営に対する代替措置や減災対策を講じ、早期の対応を可能とできる計画の選定が、長期的な企業存続には欠かせません。
危機的状況下におけるBCPの策定が事業継続の命綱となります。BCPと名付けられた計画が、いざその時に確認してみると、気合と根性で早期復旧を目指す防災計画だった、というような行き当たりばったりの内容では意味がありません。
危機的状況下こそ、ステークホルダーとの信頼関係が浮き彫りになる機会です。
BCP作成は、単純な早期復旧のみを目標とせず、具体的な復旧の優先順位と目標復旧時間を備えた実体の伴った計画でなければ意味がありません。サプライチェーンの機能不全も予測できます。
自社のBCP計画書は定期的なメンテナンスが行われているでしょうか。具体的な行動指示のフローは関係者に理解が得られているでしょうか。膨大な文章量やページに埋もれていませんでしょうか。バックアップは用意されているでしょうか。被害想定の見積は甘くないでしょうか。
ぼんやりとした計画では、ステークホルダーとの信頼を損なう結果にもなりかねません。もちろん、普段からステークホルダーと堅固な信頼関係を築いておくことも重要ですが、いざという時の行動はその後の関係性に非常に大きな影響を与えます。
この機会に改めて自社のBCPの内容を確認しておくべきといえます。
浸透しないBCP
これまで、多くの企業がBCP策定の手間を惜しみ、着手されない状況が続いていました。
帝国データバンクによるBCPに対する企業意識調査(2020年)によれば、BCPを策定している企業は、大企業は30.8%が策定、中小企業は13.6%と低水準な数値となっています。
BCP策定における想定リスクとしては、自然災害(70.9%)が最も高く、続いて感染症(69.2%)と続きます。特に感染症は前年度(24.9%)から+44.3%の急増となりました。
また、リモートワークといった多様な働き方の導入を検討している企業は4割、といった結果となっています。
今回の新型コロナウイルス感染拡大によるテレワーク推進は、社会全体が一斉に対策を迫られた過去に例のない状況でした。急遽の業務体制の変更における混乱の大きさを、我々は経験として得ることができました。予め対策を講じておくことが、事業継続において最も重要となることも、共に理解できたといえるでしょう。
ではどのような点からBCPに着手すべきでしょうか。
業務体質の改善
BCP検討対象となる代表的な例では、優先順位の策定、及び、BPOによるリスク分散、運用管理体制の効率化、業務体質の改善、また長期計画投資などがあげられます。
優先順位の選定
まず、自社事業の内、コア事業とノンコア事業といった領域を位置付けし、事業の強みと弱みを再認識します。
罹災時はリソースの投入が平時より困難になるため、対処の優先順位付けが欠かせません。罹災によるリスクのケースを想定し、優先的に着手する事項の流れを整理することで、復旧目標に必要な対象や期間を検討することが出来ます。
また、緊急時の事業継続として、何がコア事業であるかといった経営方針を再考し、BCP情報を開示するなどステークホルダーにも共通の認識を浸透させておくべきです。
取り掛かりやすい対象から着手してしまっては、BCPの目的から外れる事となります。
業務分析の実施
BCP策定運用において担当となる組織人材をアサインするだけでなく、継続的に事例を学究し、計画書や訓練に反映するなどメンテナンスとアップデートにより実効性を高め、クオリティを維持していくことも重要です。
こうした一連の更新改善はBCPに限定された事ではありません。
場所や時間に制限されないリモートワークを前提としたペーパレス化の促進はもちろん、人手を要する業務機能を省人化・自動化し、人に依存しない領域を増やし、人手不足の代替手段を確立するといった生産性向上に直結する点も着手対象です。
このような環境整備は、常日頃の業務効率の向上が主体となるのみでなく、非常時における損害の最小化も目的として検討すべきです。緊急時ほど実効性がなければ机上の空論となります。
日毎の業務内容の分析はBCP検討においても欠かせない視点となります。
BPOによる代替戦略の検討
また、自社の事業領域にBPO化できる分野がないか検討します。
BPOを取り入れることで、固定費の削減や限られた社内リソースのコア事業への集中といった効率的な運用を目指します。いざという時に企業の屋台骨となる柱が何か、またその柱を支えるリソースの確保はBCPを検討する上で方針の前提となります。
また、BPOを推進することで、罹災時の稼働を外部で確保し、供給責任能力を保持するといったリスク分散効果も視野に含めましょう。
但し、リスク分散においては、BPO委託先のBCP戦略も評価しておく必要があります。製品やサービスの供給責任を果たすためのBPOであるはずが、委託先も共に罹災し稼働が停止するようでは意味がありません。
BCPの観点においては、委託先のBCPも自社のBCP戦略の一環として取り入れる必要があります。
BCPの重要性
企業の事業継続に関与するBCPは、非常に難易度が高い試みですが、企業存続においては全く軽視できません。経営方針に沿って、BPOや省人化を進め、復旧までの代替措置や着手の優先順位付けなど実効性の高い具体的な計画が必要となります。その為には業務分析や業務体質の改善といった普段の備えが重要になります。
あなたの会社のBCPは、どのような内容になっているかご存知でしょうか。
「勇気と根性で乗り切ろう!」という場当たり的なBCP計画となっていた場合、速やかな見直しをお勧めします。
参考:
- AI業務分析|サービス詳細|まるごと電子化
- AI-OCR|サービス詳細|まるごと電子化
- 業務改善を成功に導く業務分析の進め方(AI業務分析サービス)|お役立ち資料|まるごと電子化
- まるごと電子化(プリドキュ)サービス総合案内|お役立ち資料|まるごと電子化
- 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省
- 積極的疫学調査実施要領における濃厚接触者の定義変更等に関するQ&A|国立感染症研究所
- 第1回 働く人の意識調査|公益財団法人日本生産性本部
- 事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)|帝国データバンク
- まるごと電子化(プリドキュ)|NTT印刷