フリーアドレスで、オフィスの柔軟性を強化

働き方改革の一環として注目され、導入が進むフリーアドレス。しかし、導入を試みた企業すべてが成功しているわけではなく、失敗事例も多く見られます。柔軟な働き方ができると歓迎する人がいる一方で、固定席に慣れた人にとっては、フリーアドレスは日常習慣を変える大きな変革となります。従業員はさまざまな世代から構成されており、ひとりひとりの感じ方ももちろん一様ではないため、入念な事前の準備作業から、導入後のフォローまでをしっかりと計画し実行する必要があります。ここではフリーアドレス導入の成功のためのポイントを考察します。
フリーアドレスの始め方・成功のポイント
それでは、フリーアドレスを始めるにあたって重要なポイント4つを見ていきましょう。
- 導入の目的を明確に
どのような目的を達成するためにフリーアドレスを導入するのか、全社の関連部門にて事前に認識を合わせておくことが重要になります。スペースの有効活用なのか、それとも生産性・創造性の向上を目的としたコミュニケーションの強化を行いたいのか、またその両方を実現したいのか、といった点です。
目的が不明確なまま導入しても、フリーアドレスによる効果の判断が難しくなります。従来の固定席との違いによる不満のみが出てしまう可能性もあります。明確な目的を定めてから、導入のステップを策定することが成功させるポイントです。
- 現状の把握
目的を明確化できれば、次に確認すべきは現状の把握です。
働く環境に関することですから、社内調査として従業員の意識調査も重要になります。固定席のほうがよいという従業員も多くいるかもしれませんが、フリーアドレスを推進すべきとの考えを持つ従業員も見受けられるでしょう。フリーアドレスの導入前に、従業員がどのような理由でどちらの考えを持っているのか、どのような判断基準を持っているのか、またその考え方を把握しておくことが、その後のフォローを行う上で重要な要素になります。
また、在席率の調査もフリーアドレスの席数決定には必要になります。社内でのアンケートやヒアリングから、在席率が低く、フリーアドレスへの意欲の高い部署からの導入を試みる方法もよいでしょう。
- 全社的なフリーアドレスではなく、部門ごとに行うなど部分的な導入
全社的に一気にフリーアドレスを適用しようとすると、古くからの慣習が邪魔をして失敗するケースが多く見受けられます。固定席では、自席の位置やその机の調度の質が会社でのポジションを表している場合もあり、固定席がなくなることによってあたかもそのポジションがなくなってしまったかのような喪失感を持たれてしまうケースもあるためです。従業員ひとりひとりが感じる抵抗感には思いもよらぬ理由がある場合もあります。
最初からすべてフリーアドレスにするのではなく、部分的な導入のほうが、受け入れられやすいでしょう。
- フリーアドレスの試験導入
試験導入では、想定内外のさまざまな課題が顕在化してきます。想定できる課題に対しては事前の対策を練り、発生したトラブルは即座に解決できるように予め対応策を検討しておきましょう。トラブルが続いてしまい、解決できずに試験導入自体が続行不可能になることは避けたいものです。フリーアドレス導入プロジェクトの成功を導きやすくするためにも、部署やスペースを限定しての小規模な試験導入は、労力を抑えつつもさまざまな課題を洗い出すことができます。
フリーアドレスの円滑な運用にはICT環境整備は不可欠
フリーアドレスを円滑に運用するための事前の対策として、オフィス環境の整備は不可欠です。
- ペーパーレス化
フリーアドレスへの移行と並行して、ペーパーレス化も進めておく必要があります。フリーアドレスは固定席と比べて、私物を収納できるスペースが小さくなるので、紙の資料を大量に保管することが困難になります。ペーパーレス化を推進するためには、紙書類の保管を抑制するとともに、電子化による保存を行うことが有効的な手段といえます。
- コミュニケーションやツールのクラウド化
社内のネットワークも有線LANから無線LAN、固定電話からスマートフォンに置き換えておくといったインフラの整備が必要です。クラウドストレージやビジネスチャットなど、場所にとらわれずに円滑なコミュニケーションを可能にするツールも必要となるでしょう。
フリーアドレスを運用するうえで注意すべき点
フリーアドレスを導入した後に注意すべき点を紹介します。
1.勤怠管理
フリーアドレスを導入すると、「今日は誰が出勤・欠勤しているのか」「誰がどこにいるのか」といった従来の固定席では無意識で確認できたことがわかりづらくなります。こうした環境の見える化を進めるために、勤怠管理方法の見直しも必要になります。ICTを絡めた入退室管理システムを導入して、クラウド上で勤怠管理を行うようにするなど、人事制度の見直しが考えられます。運用のしやすさとコストを鑑み、自社に合った新たな勤怠管理方法を構築する必要があります。
2.チームやグループの連帯感
フリーアドレスの導入により、部門外のメンバーとの交流が活発になる反面、同じチームやグループ社員とは一緒に仕事しているという感覚が薄れてしまう可能性があります。共有スペースを用いて、限定的なエリアから段階的にフリーアドレスを導入し、チーム内でのコミュニケーションを取りやすくしておくといった配慮も必要になるでしょう。
このように、フリーアドレスでも連帯感を失わずに、業務の生産性とのバランスを保つ方法を見つけ出すことが重要です。
3.フリーアドレスの定着・継続
フリーアドレス実施後の効果・影響に関しても継続的に調査をする必要があります。フリーアドレスの導入によって、企業側はコスト面などでメリットが見い出せたとしても、従業員の働く環境への満足度が下がっていては、仕事へのモチベーション低下につながり、結果的には実施した意味を見失ってしまうかもしれません。また、部署や業務内容によって、フリーアドレスの定着度合いには差が生じることも考えられます。
フリーアドレスの定着・継続に向けて、従業員がフリーアドレスにどのような意見や感想を持っているかを調査し、定着していない部署の原因に関しては注意深く探る必要があります。これらは定量的な分析が難しく、定性的な確認になるため、調査方法に関しては工夫が必要になる場合もあります。具体的な課題を明らかにできれば改善方法の検討に移行し、より自社に合った仕組みへと絶えず変化を続けていく必要があります。
これらは定点観測的に実施し、定期的な調査を繰り返しながら、改善すべき点をすぐに対応をし、その効能や評価を確認していくというPDCAサイクルを回していくことが大切です。
まとめ
フリーアドレスを成功させるためには、従業員の意識、オフィス環境やICT環境の整備、ペーパーレス化をバランスよく同時に進めていく必要があります。また、導入後もスペースの有効活用や生産性・創造性の向上を目的としたコミュニケーションの強化といった導入目的に応じ、効用や働く従業員の満足度を確認して、改善すべき点はすぐに対応し、フリーアドレスを定着・継続へと導く必要があります。
参考: