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新型コロナウイルス感染拡大と働き方改革

新型コロナウイルス感染拡大と働き方改革

新型コロナウイルス感染拡大によってテレワークが推進されるなど、感染拡大防止と共に「働き方改革」がより身近になった今日、こうした変化を緊急的な一過性の措置として終えるか、継続的な改革に結びつけていけるかは、企業にとって今後の大きな課題であるといえます。

今回は、緊急事態宣言の解除を受け今後の新しい働き方を考える機会として、改めて働き方改革が何を目指すかを確認しましょう。

働き方改革を理解するための注意点

もはや「働き方改革」という言葉を知らない人はいないでしょう。

しかしこれまで働き方改革の結果を出せている企業は少数だったかもしれません。「時短勤務」や「有給休暇取得率向上」が改革の成果であるという認識が、働き方改革がはかどらなかった原因のひとつなのではないでしょうか。

働き方改革の認識に齟齬や不足があったり、手法が適切ではない事例も多いようです。働き方改革の本質は業務改善による生産性の向上にあります。その点を正しく理解しなければ真の効果は得られません。働き方改革の課題と解決策について考えてみましょう。

 

2019~2020年、「働き方改革」調査結果

新型コロナウイルス感染拡大の前後の動態比較として、2例を紹介します。

働き方改革への取り組みに対するアンケート調査

求人情報メディア・人材紹介サービスのエン・ジャパン株式会社が、2019年11月に実施した自社サイトのユーザー約1万人に対するアンケート調査によると、在籍先の企業が働き方改革に取り組んでいるかどうかの質問に、43%が「取り組んでいる」と回答しています。

その取組み内容については、「有給休暇取得の促進」70%、「ノー残業デーなど、長時間労働の見直し」65%が中心であり、「在宅勤務など、多様な働き方の推進」や「女性管理職登用など、女性活躍の推進」は、どちらも20%しかありませんでした(いずれも複数回答)。

この調査結果から、働き方改革への取り組みは残業時間の削減や有給休暇の取得促進など労働時間の短縮といったコスト削減に注視されていることが伺えます。

テレワーク人口実態調査結果

国土交通省による「平成31年度テレワーク人口実態調査結果」によれば、テレワーク認知状況は年々増加傾向にはあるものの、2019年10~11月の調査では雇用型就業者としてのテレワーク実施は2割以下という状況でしたが、2020年3月調査時点ではテレワーク実施状況は5割を超えたという調査結果が出ており、また今回の新型コロナウイルス対策の一環としてテレワークを実施したという回答は全体の4割弱となりました。

この調査結果からは、昨今の新型コロナウイルスの拡大に伴ってテレワークの実施が急増し、社会的に「働き方改革」が急激に推し進められたということが伺えます。

 

今後も、継続的に働き方改革を発展させるためには、労働時間削減のみならず、業務全体の改善による生産性の向上という真の目的を意識し、いま一度、経営者層が働き方改革についてその定義や目標、期待効果などを再考する必要がありそうです。

 

本来の働き方改革が目指すもの

働き方改革の本質を目指すためには、業務改善に基づいた改革を実施することが理想です。働き方改革の目的について整理してみます。

生産性の向上

残業の規制や残業時間削減の運動を展開しても、根本的な業務改善が為されていなければ、それは一時的な効果で終わってしまうことがあります。強引に結果だけ求めれば、自宅での持ち帰り残業によるワークライフバランスの欠如や過労といったリスクも付きまといます。

生産性の向上とは、限られたリソースから成果が得られるように、業務の抜本的な改革を行うことによって達成できます。仕事の仕方や仕組みそのものをこれまでとは異なった方法に変え、別の方法を取り入れることで、無理のない労働時間の短縮や、限られたリソースで成果が出せるような体制を構築することが重要です。固定費削減や支出抑制だけではなく、将来的な事業の継続性にも目を向けて考える必要があります。

社員満足度の向上

同時に、業務の仕組みの改善や働きやすい労働環境の提供、フレックス制度やテレワークといった多様な働き方の導入を通してダイバーシティ経営を推進することで、社員満足度と労働意欲の向上も合わせて目指すことになります。残業時間が減っても生活に支障が出ないようワークライフバランスを意識し、新制度に合わせた賃金体系や適性な評価体系の策定も同時に進める必要もあります。その結果、社員満足度が向上し、離職率の低下や、多様な人材登用といった雇用機会の創出へつながれば、労働力不足の対策のひとつとしても期待できるようにもなります。

就労や雇用の制度を見直し、十分な働き手を確保することも働き方改革のひとつのテーマです。

働き方改革 先駆者の取り組み事例

それでは、実際に働き方改革をどのように進めていくべきでしょうか? 業務の見直し、制度の改革、システムやツールの導入等で、実際に「働き方改革」を実現した先駆者の事例を下記にご紹介します。

「通信サービス業」無駄な業務を洗い出し1割残業削減

2014年から働き方改革への取り組みを開始、ちょうど新規事業の立ち上げと重なりましたが、「忙しいときこそ仕事の見直しを」と意識の転換を図りました。その内容は「業務の洗い出し」を経て、「作成した目標の基準に満たない業務を廃止」し、「会議を30分以内に収める」などです。営業部から着手し、結果として新規事業で繁忙期にもかかわらず「平均1割の残業時間の削減」に成功しました。

「アパレル業」コミュニケーション改革で深夜残業38%減

店長とスタッフの間のコミュニケーション不足と、店長の管理能力の不足から残業が発生すると仮説を立て、マネジメント研修の拡大とスタッフの自主性を重んじる方針に変更した結果、スタッフのモチベーションを高めることに成功しました。店長が自主的にノウハウ共有のための勉強会を開催し、店長とスタッフ間の意思の疎通が充実することで、深夜残業38%減、残業25%減を達成し、同時に売上げを5億円増やしました。

「Web広告業」母親になっても働ける

女性の活躍を促進する制度として、いつまでも長く勤務してもらうことを目標に、女性特有の体調不良の場合や、不妊治療中の場合などに月1回の特別休暇制度を設定しました。そして月1回の上司との面談やカウンセリング、年2回各部署で個人や組織の能力・成果向上のための定期会議を持つようにしました。なかでもこの年2回の会議は、ともすると増えていってしまう日常業務を一度洗い出し、負担の大きい業務の改善を検討するもので、男女社員のほか、上長も加わって行われます。

「IT業」多様な働き方制度で離職率が低下

ワークライフバランスに配慮し、働き方の多様性に合わせた勤務体系を設定、28%という離職率を4%以下にまで下げることに成功しました。その勤務体系の例としては、在宅勤務、育児や介護に合わせた働き方の選択制、子どもを連れての出勤を可能にする制度などです。

「倉庫業」伝票の電子化でドライバー待ち時間を55%減

社員ではなく、配送を請け負う運送会社のドライバーに焦点を当てました。スマートフォン用の独自のアプリケーションで、荷積み、荷下ろしの待ち時間の低減を図りました。加えて、スマートフォンで納品手続きが完了できる電子伝票を開発、納品伝票、受領印などを電子化し、作業効率の向上に成功しました。アプリケーションの利用によって、物流センターのトラック滞在時間が約55%減り、さらに電子伝票の導入効果が加わることで滞在時間70%の削減を達成しました。

「生命保険業」独自システム開発で顧客対応時間4分の1に1

保険の営業や手続きで社員の休日出勤などの負担が増加したことから、システム開発会社と共同開発したAIによる独自の業務支援システムを導入。経験の浅い社員でも顧客からの問い合わせ等に答えられるようになり、FAQをリアルタイムに表示させる機能等の支援の結果、1回の顧客との会話時間を従来の4分の1ほどにまで低減できました。

改革に欠かせないツールや外部の力

従来、社員は企業の仕組みや制度に合わせることが前提でした。しかし事例にもある通り、近年の着眼点や発想はむしろ逆で、企業が社員などの働き手の状況に合わせた制度を設定することで、働き手の確保、退職防止を実現しています。また、モチベーションの向上という、社員の労働意欲を引き出すことも大切なポイントであると気付かされます。ルールや運動だけで残業時間を削減するだけではなく、業務全体の仕組みや制度を変え、社員の働き方改革を推進することで、初めて継続的な業務改善や生産性の向上が得られる土壌が定着していくということです。そして、そうした多様な取り組みによる社員意識の改革から、様々な事例のフィードバックによる効率化の推進や、多角的な水平展開を行うことで、労働時間削減だけでなく事業全体の継続性の向上といったプラス効果として波及していくことが期待できるのです。

参考:

業務効率化・働き方改革のお役立ち資料

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