「手段」であって「目的」ではないペーパーレス化 企業が得られる最大のメリットは?

ペーパーレス化には多くのメリットがあります。なかでも、コストカット・業務の効率化に関する効果が大きいとされます。しかし、企業にとってペーパーレス化は実現しにくい課題なのか、ペーパーレス化がなかなか進まないということも珍しくありません。従業員にとっても、ペーパーレス化の推進は手間暇がかかるうえ、必ずしもやりがいのあるプロジェクトではないことが多いようです。
ペーパーレス化から企業が受けるベネフィットは、端的には「働き方改革」の実現ですが、なぜ、ペーパーレス化がその実現に有効な手段とされるのか、この機会にあらためて考えてみませんか。
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ペーパーレス化のメリット
ペーパーレス化には多くのメリットが指摘されています。
- スペースの有効利用ができる
書庫を用意する必要がなくなることで、オープンスペースや会議室の増設など、ほかの有益な目的に書庫スペースを転用することができます。
- 文書の回覧・承認が遠隔地・出張先でもできるようになる
本社と各支店間の業務のタイムラグを解消し、テレワークの推進、出張時における業務停滞の解消につながります。
- 物理的情報セキュリティ体制を改善できる
紙のままで文書を扱うことに比べ、ペーパーレス化することで文書の劣化や紛失に関するリスクを低減でき、セキュリティ機能を高めることができます。また、電子文書の暗号化によって、情報漏えいのリスクも低減できます。
- 文書の検索性が上がる
大手文房具メーカーの調べ(2017年調査)によると、文書を探す時間は1日あたり約20分、1年にすると約80時間にものぼるとのことです。電子文書であれば、システムでの検索が可能となり、大幅な時間短縮が期待できます。また、紙文書の場合にはファイリングや製本を行い、検索性を高める工夫が必要ですが、電子ファイルならこれらの工数を削減できます。
- 自動化をRPAで進める前提となる
RPAは主に事務作業の自動化を促進します。RPAではデータの検索・抽出・処理ができますが、RPAの機能を利用するうえで、文書が事前に電子化されていることが前提となります。
ペーパーレス化を阻んできた要因
しかし、数々のメリットがあるにもかかわらず、これまでペーパーレス化は思うほど普及してきませんでした。
その理由として、以下のものが挙げられるでしょう。
要因1:導入時のコスト・工数を負担するのに抵抗がある
長い目で見たメリットは理解できていても、文書管理システムの導入や、過去文書のスキャンにかける工数を考えると、一斉にペーパーレス化を推し進めるのには手間がかかりすぎることや、一斉に紙からの転換を行うのは予算的に難しいという理由から、ペーパーレス化が現実的ではないと判断される場合があります。
要因2:ペーパーレスにはできない文書もある
原本保管が必要な契約書などは紙で残さねばなりません。電子保存が法律で認められていない文書は、紙で文書を作成・保管する必要があります。電子帳簿保存法の対象文書のように、電子データで保存できることが明記されている場合はよいですが、そうでない場合には、紙の文書を廃棄しても良いかどうかの判断をしなければいけません。紙の文書を電子化して保存することに対する不安はこうした背景から生まれてくることもあるでしょう。
要因3:情報漏えいなどのセキュリティリスクへの不安がある
ペーパーレス化とクラウド化は密接な関係があります。大量の電子文書情報の保存や共有にはクラウドストレージが向いているため、文書管理システムもクラウドサービスのものが多くなっています。
クラウドは、情報漏えいリスクがオンプレミスよりも高いと判断される傾向が長く続いており、クラウドに対する抵抗感がペーパーレス化にブレーキをかける大きな要因になっていたと考えられます。しかし、オンプレミスサーバでサイバーリスクを防ぐためのコストの高さや、高度な技術人員を確保することの難しさ、クラウドサービスのセキュリティ体制向上などによって、クラウドに対する抵抗感がかなり緩和されつつあります。
要因4:社内のIT環境の整備が追いつかない
通信ネットワークで電子文書データをやり取りすることになると、データの通信量が増えます。社内ネットワークを改良する必要がある場合もあります。また、通信上の情報セキュリティ体制をより強固にする必要も生じます。こうしたITインフラの整備には時間とコストがかかるため、ペーパーレス化の推進を妨げる要因となる場合があります。
もちろん、紙は視認性が高く、チェック業務などでは紙を見て行うほうが効率的であると感じる人も多いなど、紙には紙の良さがありますし、全ての紙文書をペーパーレス化するにはかなりの工数とコストがかかってしまいます。自社の環境や予算に合わせて、紙で保存するべき文書と電子化するべき文書の整理を行い、適切なペーパーレス化を進めていくことが大切です。
企業が受けることのできるベネフィット
近年、多くの企業で課題となっている働き方改革が、ペーパーレス化により達成できると考えられるようになったため、ペーパーレス化が脚光を浴びるようになりました。ペーパーレス化を手段とし、働き方改革を目指す動きが出てきたのです。
ペーパーレス化で近い将来の労働力不足を緩和
1995年に約9,000万人でピークを迎えた生産年齢人口は、2013年で約8,000万人、2027年には7,000万人を下回ると予想されるなど、急速に減少し続けています(総務省|平成29年10月1日「人口推計」より)。
企業によっては、すでに少子高齢化を背景とする人手不足に悩まされています。その一方では働き方改革の推進、法規制の厳格化により、十分に人材が確保できないなかで、労働時間の削減や生産性の向上が求められています。
ペーパーレス化による業務の効率化が進めば、生産性が向上するだけでなく、テレワーク・リモートワークなどを利用して、育児中の方や高齢者といった就労していない人・短時間しか働けない人も戦力として取り込みやすくなるでしょう。
ペーパーレス化で業務改善を進めて長時間労働を削減
ペーパーレス化は、一旦軌道にのれば、業務時間の削減・工程短縮・コストの削減などを達成させることは難しくありません。
人員リソースや時間に余裕ができると、さらに業務改善を進められるという好循環を生み出すことができ、結果として生産性を落とさずに長時間労働を減らすことにつながります。
削減したコストでRPAなど自動化のソリューション導入も可能になると、さらに生産性が向上するようになります。
ペーパーレス化で企業文化も変わる
ペーパーレス化を推進すると、テレワーク・フリーアドレスの導入が容易になります。その結果、ワークスタイル・コミュニケーションも変わります。こうした変化によって、育児中の方や高齢者といった多様な人たちの職場での戦力化が進むと、職場の雰囲気、ひいては企業文化も変わっていくこととなるでしょう。ダイバーシティ経営の推進やブランド価値向上のための対外広報活動に、自社のペーパーレス化をホームページなどで事例紹介する企業が多いように、多様な働き方が認められている企業文化は、優秀な人材確保にもつながります。
ペーパーレス化で働き方改革を推進
ペーパーレス化には多くのメリットがあり、長時間労働の削減のほか、人手不足対策、労働力の有効活用、変化を柔軟に受け入れる企業文化の実現など、業務効率化だけではないベネフィットが企業にもたらされます。ペーパーレス化に伴うスキャニングへの稼働負担やIT環境の整備などの課題については、アウトソーシングの活用により克服できることがあります。次世代に向けて、より包括的な取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。
参考: